東京高等裁判所 昭和53年(う)308号 判決
被告人 伊藤武
〔抄 録〕
所論は、原審において、弁護人は、証人三上高星の供述の証明力を争うため、同人の検察官に対する昭和五一年一一月八日付供述調書(控訴趣意書に、同人の司法警察員に対する昭和五一年一一月四日付供述調書とあるのは、誤記と認める。)の取調を請求したところ、原審裁判官は、右請求につき検察官の意見を求めた際、検察官に対し、右調書を採用しても、三上の検察官に対する同年一一月一三日付供述調書(控訴趣意書に、一二月一三日付とあるのは、誤記と認める。)を同人の供述の証明力を増強するものとして申請すればよいではないかと勧告し、右勧告に基づく検察官の請求に対し、弁護人が異議を述べたにもかかわらず、原裁判所は右検察官調書を採用したが、刑事訴訟法三二八条所定の証拠は、供述の証明力を減殺するためのものであり、証明力を増強するために適用を認めてはならないものであるのみならず、原審裁判官のこのような事実上の訴訟指揮は、日本国憲法三一条に違反するものであるという。
記録を調査すると、原裁判所が、原審第六回公判期日に、弁護人が三上高星の証言を弾劾するために請求した、同人の検察官に対する昭和五一年一一月八日付供述調書と、検察官が同人の証言の信用性を回復するため請求した、同人の検察官に対する同月一三日付供述調書を、いずれも刑事訴訟法三二八条の書面として採用し、まず弁護人請求の書面を、次いで検察官請求の書面を取り調べたことが認められるけれども、右検察官の請求が原審裁判官の示唆によるものであるか否かは、記録上明らかではない。
ところで、刑事訴訟法三二八条による証拠は、証人等の供述の証明力を減殺するために取り調べられるものであって、供述の証明力を増強するために用いてはならないと解すべきことは、所論のとおりである。しかしながら、本件原審においては、弁護人請求の弾劾証拠により減殺された供述の証明力を回復するために、検察官請求の書面を取り調べたものと解するのが相当であって、弾劾証拠を弾劾するものにほかならず、右のような手続は、刑事訴訟法三二八条にのっとり当然許されるものといわなければならない。してみれば、この点に関する原裁判所の訴訟手続が法令に違反しているとはいえない。また、仮に、原審裁判官が、三上の供述の信用性を回復するための立証を検察官に促したとしても、これまた違法とはいえず、原審裁判官の訴訟指揮が日本国憲法三一条に違反するとの所論は採用できない。
(綿引 石橋 藤野)